インフォメーション
 
 その町が旅人に対してどのように接しているかをみるには、インフォメーションへ行ってモノを尋ねると、おおよその事は分かります。
 
 応対する係員の性格や資質によるとお思いのムキもおありでしょうが、ヨーロッパの小さな町のインフォメーションは、大都会のそれとちがい、代々その土地に住みついている人が担当するので、人一倍自分の町に対する愛情と誇りを持っているのです。
 
 先祖代々何百年も住んでごらんなさい、余程の変人でもなければ自分たちの町を大切にします。移動の激しい都会では考えられない深い愛が存在するのです。だから私は、ヨーロッパの小都市や田舎のインフォメーションが好きなのです。
 
 涙がこぼれるほどうれしく、懐かしかったインフォメーション、何十年立っても忘れることはありません。近年では、ストーンヘイブン(スコットランド)、ソールズベリー(イングランド)、コルド(南西フランス)、バルモラル城近く(スコットランド)などの各インフォメーションの親切で思いやりのある人たちの顔、会話の内容ははっきり憶えています。
 
 日本の案内所(都市部)のぶっきらぼうで事務的、かつクールな応対ぶりとは月とすっぽん、彼我の差はあまりに大きく、日本の都会に住む人々が、いかにその町を愛していないか、また、人を愛していないか十分すぎるほどよく分かります。
 
 旅人の中には、見知らぬ町に来て不安をかかえている人もいるでしょうし、地元の人しか知らない観光スポットに期待している人や、安くておいしいレストラン、清潔で静かな宿を探している人など、さまざまな要望に対して多様かつ臨機応変にこたえるという使命がインフォメーションに背負わされています。
 
 この国のように、1時間いくらの時間給だから、拘束された時間だけ辛抱していればいいじゃん、みたいな頭では到底インフォメーションの仕事は勤まりません。誤解を恐れずに言いますと、私は、かの地のあの素晴らしい応対と、心温まるホスピタリティにもう一度出会いたくて旅に出ることもあります。ヨーロッパの田舎や小都市は、景色や観光資源が豊富に存在するだけではなく、人的資源も豊かに存在するのです。
 
 さて、インフォメーションではじつに多くのパンフレットやチラシ、地図などが用意されています。だいたい無料ですが、中には有料のものもあります。必要に応じて入手なさって下さい。私はインフォメーションをフルに活用します。インフォメーションはもっとも優れたガイドブックであり、旅の先生なのです。私見をあえて申し上げますと、インフォメーション活用術に長けた人こそ旅の達人であると思います。
 
 単なる旅情報ならネット、ホームページでも手軽に得ることはできるでしょう。しかし、英文やその他の外国語でだらだら羅列された文章を読むのは一苦労。だいいち、面白くありません。インフォメーションで行き届いた係員から手ほどきされるとっておきの情報、これぞまさしく金科玉条、旅の華といっても過言ではありますまい。
 
 インフォメーションを利用なさった経験のない方も、よくご存知の方も、あまねく今後も活用される事を願ってやみません。旅行は回数ではありません。海外旅行歴30有余年、回数80回以上の小生が顰蹙(ひんしゅく)を買うのを承知で申し上げます。旅の達人になれるかなれないか、そして、旅の達人になる最短の道とは……。
それは、ひとえに、うまくインフォメーションを活用できるかできないか、その違いなのです。あとは当人の感性と分析能力だと思います。 では、よい旅を。
   
 
 ※インフォメーションとはツーリスト・インフォメーション(観光案内所)の事です※
 
2002/09/23