ここへ来るとこういう写真ばかり見せられる‥と文句の一つも言っている御仁がいるやもしれないのだが、
それはそれ、来たからにはしばしおつき合い願うしかない。何度も申し上げているように私は田舎が好きである。
好きな理由も繰り返し申し上げているが、水と空気がおいしいから、過剰なるもの、余分なものがないから、
滞在に必要不可欠な心のあたたかさは十分にあるから‥足が勝手に田舎へと向いてしまうのである。
 
私の旅はほとんどが田舎巡りの旅だ。1969年、初めて海外旅行(ヨーロッパでした)に出た時、人なみに
大英博物館、ルーブル、ウフィツイ美術館(Galleria degli Uffizi)などにも入りびたったことはあるし、
都会の便利さ(特に地下鉄の便はよい)を否定する気は毛頭ないのであるが、若かったその頃でさえ、
再訪したいと思ったのはハイデルベルグやバーデン・バーデンのような小さな町であった。心がなごむのだ。
 
年をとったから田舎がいいと思うようになったのではない、生まれた時から田舎がいいと思っている。
その思いは終生つづくし、これを書きながらも様々な田舎の風景が次から次へと脳裡にうかんでくる。
画像はマヨルカ島のバルデモサ、3月半ば早春の候で、ここに来る道中、雪のような杏が満開だった。
(画像左、こんもりした林のなかにある建物はカルトゥハ修道院)
 
ショパンと共にマヨルカに滞在したジョルジュ・サンドは、「マヨルカの冬」にこう記している。
 
『周りには、豊かな土壌に傾斜した農地が作られ、あちこちの丘に沿って不規則に大きな段々畑が
広がっていた。大雨や突然の増水に絶えず脅かされている島のいたるところに段々畑が作られ、
それが木々の成育を助け、田園風景はみごとに手が行き届いた果樹園のように見えた。』