黒衣の肖像画と較べて明らかに劣るのは、【肢体が硬直していて、あたかも瀬戸物の人形のようである】と堀田善衛(「ゴヤ」第2巻)は記している。
また、【アルバ家に対して3回依頼し、三度目にようやくアルバ公邸でこの絵の前に立つことができた】とも述べている。
 
この肖像画の描かれた翌年の6月、アルバ公爵が突然亡くなる。40歳だった。
公爵はセビーリアでひとり寂しく死んだらしく、館を見せてもらった堀田善衛は「本箱にドン・キホーテや、モンテーニュのエッセイの初版本などが無造作に突っ込んであるのを見てびっくりした」と記している(前掲書)。
 
第13代アルバ公爵夫人は1802年7月に死ぬ。突然のことゆえ王妃による毒殺説も流れたが、真偽のほどは定かではない。時に夫人40歳。子どもはなかった。
公爵夫人というのは、公爵と結婚したから公爵夫人になったのではない、
公爵夫人に冠されるスペイン語Duquesaは女公爵の意。生まれながらの女公爵なのである。
 
ゴヤが1789年に描いた王妃マリア・ルイーサの肖像画について堀田善衛は、
「この王妃の傲慢さと野卑さに限りはない」
「それは顔などというものではない、この王妃の内面の譎詐、強欲、嫉妬、あくなき性欲などがまるで一枚の布を裏返したかのように出ていて、ちょっと正視に耐えない代物である」とこきおろしている。
 
それに較べてアルバ公爵夫人は瀬戸物の人形ふうだが、人間味を失っていない。




アルバ公爵夫人  1795年 ゴヤ作   194センチ×130センチ
マリア・ルイーサ(38歳)像 1789年 ゴヤ作  「ゴヤ」第2巻(新潮社)より『無断』転載