2019-08-04 Sun
ニューヨーク 最高の訳あり物件 独2017
 
 「ニューヨーク 最高の訳あり物件」の舞台はニューヨーク。原題は「Forget About Nick」。米国映画ならみにいかない。邦題は単なるウケ狙い、「訳あり」とはあまりに陳腐と思ったが、ドイツ映画なのでみにいった(7月中旬 )。
配給会社が仕入れる米国映画は毎度おなじみの俳優が出て、仲間内のなあなあ演技でお茶を濁す。安易というか安手というか、すぐ底が割れる映画を料金を払ってみる気はしない。
 
 金回りのいい初老の男ニックがデザイナーとしての才能を生かしたいと起業計画実施中の妻(40歳前後)に資金を提供するが、彼女は突然離婚をせまられる。夫は若いトップモデルと不倫している模様。ストレスが満身にあふれんばかりの妻は菓子類を買い込み、ところ狭しと自宅キッチンの収納棚に置く。ロクに夕食もとらず帰宅後、棚の菓子類をむさぼり食らう。
 
 新ブランドを起ちあげるために予想外の出費も重なって資金繰りが逼迫、銀行融資の抵当にメゾネットタイプの自宅高級マンション(イースト・ヴィレッジ)を差し出さねばならなくなってしまう。そこへ元妻(50歳代前半)がベルリンから来て、マンション所有権の50%は自分にあると主張、「私もあなたと同じくらいの年齢で夫が浮気し、それがあなた」と言い、階下部に住みはじめる。
 
 妻役のノルウェー女優イングリッド・ボルゾ・ベルダルは「ヘンゼルとグレーテル」(2013米)の魔女で出演していた。険しい目をしているから今回のような気の強い発散型の役は合っている。
元妻役カッチャ・リーマンはドイツの女優。出演作をみているかもしれないが、記憶をたぐりよせても思い出せないので、若いころより現在のほうが魅力的なのだろう。実年齢は50歳をこえているのに、映画に登場する女性のなかで最もチャーミング。
 
 元妻は家庭的な面を持ち料理上手。離婚後はベルリンの大学講師をしながら子育てに従事した。現妻は非家庭的で料理もしない。ことあるごとに対立し、現妻の弁護士を交えて諍いの種は尽きない。が、共に暮らさざるを得ない。そうこうするうちに元妻の娘が休暇を利用し、子どもを連れてドイツからやって来る。これがとんでもない腕白坊主で目が離せない。
 
 元妻は職を求めて大学を訪ねる。しかし講師のくちはたやすく見つからない。しかたなくマンションのリビングで文学講座を開き受講者を募集する。さいわいにも受講者が集まったのは、元妻が上梓した著書のおかげ。文学的専門性が高いということで一部の学生に知られていたのだ。
娘は娘で嗅覚のすぐれていることが調香師(パフューマー)に向いており、現妻のブランドに香水を加えるという話が持ち上がる。娘と意気投合した現妻は破格の給料を提示し、娘をスカウトしようとするが‥。
 
 どれほど高級であっても、かなり古いマンションなので老朽化している。内装は新しくできても壁の裏側まではそう簡単に手をつけられない。ある日、天井から水がもれる。階上のバスタブから湯があふれだし、それでと考えたら大間違い。いきなり大水が噴き出し、床に落下した。水道管が破裂したのだ。
元妻が応急処置し水を止め、修理器具を調達し水道管に修繕を施す。いっときの間に合わせにすぎないとしても最悪の事態は免れた。その後のマンションの運命やいかに。元妻、現妻はどうなるのか。
 
 元妻役カッチャ・リーマンがうまい。自然でさりげなく、動きにムダがない。しゃきっとして、クチの割に優しげ、ときおりイタズラっぽい目をするのも堂に入っている。テンポも脚本もよく、俳優もそろったハートフル・コメディである。