2025-11-26 Wed
リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界 英2023 2025年11月22日WOWOW
 
 戦場カメラマンとして名をはせたリー・ミラー(1907−77)をケイト・ウィンスレットがやった。英国女優ケイト・ウィンスレットが出演した映画、ドラマをすべてみてきた。世界で活躍する女優のなかで見逃せないのは彼女とヘレン・ミレン。世の女優が見習うべきは役者魂である。
 
 ケイト・ウィンスレットは19歳のとき出演した「いつか晴れた日に」(1995)で名優の片鱗を見せていた。「日陰のふたり」(1996)は暗い映画だったせいか注目されなかったが、その後、英国映画をみようと思うきっかけになる。演技を感じさせない演技。英国の俳優はすべてそうだと理解した。
 
 「タイタニック」(1997)は余技である。演技力50%を使い、余裕しゃくしゃくに見えた。鼻歌でも歌いながら芝居していたのではないだろうか。対照的にレオナルド・ディカプリオは持てる力100%を発揮していた。
ディカプリオが彼女をリードしているかのごとき演出なのだが、逆である。千歩譲っても、米国の俳優は米国の俳優にすぎず、英国の俳優に較べると見劣りする。ケイト・ウィンスレットの芝居のうまさにディカプリオが発憤し、「タイタニック」は成功したのだ。
 
 ケイト・ウィンスレットはオールマイティの俳優、どんな役でもこなしてしまう。「グッバイ・モロッコ」(1998)で新境地を拓き、「エニグマ」でサスペンスに挑戦、「アイリス」ではアルツハイマーになる以前の若い作家役。出演作をぜんぶ並べればそれだけで紙面が埋まりそうなので中抜き。
 
 「愛を読むひと」の複雑な役は欧米の映画関係者の目を見張らせた。コメディ「おとなのけんか」(2011)では、ジョディ・フォスターなど男女3人を向こうに回し芸達者なところをみせてくれた。連続テレビドラマ「ミルドレッド・ピアース 幸せの代償」(2011)もよかった。
 
 「ヴェルサイユの宮廷庭師」(2015)はルイ14世の庭師に指名された無名の女性庭師をやった秀作。2016年に亡くなったアラン・リックマンがルイ14世役。アラン・リックマンは「いつか晴れた日に」でケイト・ウィンスレットと共演、ひとまわり年長の大佐で、最後に彼女と結ばれる役が記憶に残る。
 
 前置きが長くなったところで本題。映画は老齢となったリー・ミラーに対するインタビューからはじまる。戦場カメラマンになる前、「ヴォーグ」誌のトップモデルだったころの回想。
そこで思い出したのは、「プライベート・ウォー」(2018)で戦場記者メリー・コルヴィル役をやった英国女優ロザムンド・パイク。スリランカの内戦で片目を失った彼女は、それでもイラク、アフガニスタンの戦場へ赴く。
 
 戦場記者、戦場カメラマンは気骨のかたまりである。日本にも戦場記者・二村伸がいた。面構えが普通の記者とちがった。長いテント生活をものともせず、缶詰ばかり食べる生活を余儀なくされ、歯がボロボロになり、戦場記者の鑑となった。
 
 リー・ミラー役ケイト・ウィンスレットは二眼レフの名機ローライ・フレックスの持ち方、構え方から役づくりをスタートさせたと思われる。毎日々々カメラを構え、ファインダーを覗き、シャッターを押したろう。映画ロケの初日、彼女はすでにカメラマンだった。見る人が見ればわかる。
 
 ローライ・フレックスは亡父のあこがれだったけれど、高すぎて買えず、国産の二眼レフ・ヤシカ製のカメラを使っていた。子どもが大きくなるころ二眼レフの時代は終わり、父も一眼レフを購入。小生が初めて買ったのはオリンパスの固定レンズ式カメラ。レンズ交換不可。
当時、ズイコーレンズでオリンパスは名を知られるようになった。ズイコーは瑞光。瑞穂光学が開発した。光学分野で日本が世界をリードする先駆けである。
 
 リー・ミラーのケイト・ウィンスレットにひとつだけ注文をつけるとすれば体型。主演女優でもカトリーヌ・ドヌーブのような大根役者なら太っても問題ない。主演女優の生命線は肥満防止。顔だけ見るとわからないが肥満はラブシーンの大敵。
 
 大女優エリザベス・テイラーも中年になって太り初め、ウェイト・トレーニングに挑戦し減量した。ウィンスレットは映画出演のオファーが多く、引き受ければ直ちに役づくりに邁進し、時間が足りないのか。なんとかしようと思いはしても体質が言うことを聞いてくれないのか。
 
 リー・ミラーはほとんど兵士を撮影していない。カメラを向けたのは、戦争で悲惨な目にあったユダヤ人や、居場所をなくした民間人、穴の空いた壁から見える浜辺、桟橋にたたずむ女、駅のこわれそうなベンチで列車を待つ母と息子、テーブルに放置された婦人靴、スカーフなど。
 
 いまやフランスのトップ女優ともいえるマリオン・コティヤールが、登場は少ないけれど印象的なシーンに出ている。特筆すべきは、英国のジャーナリストでもあり、英国版「ヴォーグ」の編集者でもあったオードリー・ウィザーズ役アンドレア・ライズボロー。
「ウォリスとエドワード 王冠を賭けた恋」(2011)のシンプソン夫人ですばらしい芝居をみせ、「シャドー・ダンサー」(2012)では無理矢理MI5のスパイにさせられてしまう若い母親を見事に演じた。英仏の芝居巧者の共演も魅力のひとつ。
 
 リー・ミラーは英国版「ヴォーグ」でカメラマンの仕事を請け負っており、編集者と共同作業をしていたのだが、突如戦争激化をかえりみず戦場カメラマンとなる。何が彼女をそうさせたのか。
戦場でリー・ミラーの真価が発揮された。ケイト・ウィンスレットは主演と製作総指揮を兼ねている。リー・ミラーを映像化せずしてほかに何を映画化できよう。そういう魂が込められた名作。主役が女性のとき男性は影。影は人を引き立てるが、この映画は影がなくても魅せられる。