主人公ハロルド・フライと妻は南イングランド・デヴォン州のキングス・ブリッジに住んでいる。会社の同僚だった老年女性が余命わずかと知ったハロルドは手紙を書く。郵便ポストへ向かった途中ガソリンスタンドのコンビニで若いパートタイーマーに話し、彼女の言葉に触発されたハロルドは元同僚のいる北イングランドのベリック・アポン・ツイード行きを思い立つ。
着のみ着のまま、わずかなお金しか持ってこなかったので目的地(約760キロ)まで徒歩。ふだんは散歩もしない老人に何がそうさせたか、何があったのか、進行とともに徐々に明らかになってゆく。ハロルドは魂の救済を求めたのだ。
ハロルド役ジム・ブロードベント(1949−)は助演も主演もこなすが、今回は生涯の当たり役である。ハロルドの妻役は映画「アイリス」でも共演したペネロープ・ウィルトン(「ダウントンアビー」&「ガーンジー島の読書会の秘密」)。
ドラマはハロルドが歩く道、村、民家などを次々と映しだす。エクセター(デヴォン州)、ブリストル、グロスター(グロスター州)、コッツウォルズ。レスター、ノッティンガム、ピーク・ディストリクト、シェフィールド、サースク、スカーバラ、バンバラなどを北上。小道は両側を生垣に囲まれているか、なだらかな丘陵や田園地帯を抜けるか、フットパスか。その美しさにため息がもれる。
いつか見た景色、通った道。まだ見ぬ風景、歩いてみたい道。未経験の場所は想像で、もしくはあの世で。ハロルドは小生と同年なので気持ちが入り込むとして、イングランドのすばらしい風景を見て心が癒やされる。海外の風景で最も愛するのはイングランドのカントリーサイドなのだ。
ハロルドは主に誰もいない農家の納屋、あるいは樹の下で野宿する。食べものはファミリーレストランで同席した人のものを分けてもらうか、民家でごちそうになるか。
ハロルドの靴はボロボロになり、ふくらはぎも、くるぶしときびすにかけても赤く腫れ、歩行困難一歩手前までいったとき、水を飲ましてもらうため寄った人家の女性が手当てする。
彼女はスロバキアから英国に来た外国人労働者の女医で、就労パスもコネもなく、医者としての職業に就けず、その家で相方と一緒に暮らしていたが、相方は女と逃げ、現在掃除婦としてはたらいていた。苦労人は苦労人をとっさに見分ける。彼女はボロボロの靴の修繕を誰かに頼みハロルドに渡す。
道中、さまざまな出会いがあった。困っている人を見捨てておけない、というのが英国人気質かどうかわからない。だが、旅で出会った英国人は、英国にかぎらずチェコでもポルトガルでも親切で思いやりがあった。英国を愛せたのは風景、そして英国気質だった。
何かをまっとうするには辛苦が伴う。乗りこえなければ後悔するだろう。乗りこえたあとの達成感はひとしお。そうと頭でわかっても乗り切るのは難しい。人は往々にして意味を求める。意味なんかなくていい。意味を求めるから疲れる。疲れたいと願う人や学者だけが求めればいい。
日本での一般公開は昨年だという。上映時間106分。英国の名作映画をまたみることができた。

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