HOTEL(1)
 
 この小文は「旅の雑学ノート・HOTEL」の続編です。雑文であるかぎりにおいて、前編をお読みにならなくとも支障はないと思いますが、どんな戯言を書いたのかと触手の動く方は、ご面倒でも上記の一文をお読み下さい。
 
 
 名門と呼ばれるホテルが人を魅了するのは、次の理由によるだろう。ビジネスか観光か、もしくはそのほかの目的か、用途のいかんにかかわらず、ホテルは休息と安寧、好奇心とときめき、商談と歓談、美容と健康、午餐と晩餐などをすべての客に提供し、さらにそのホテルにしか求められないプラス・アルファ=付加価値を持っていなければならない。すべての客とは宿泊客のみを意味するのではない、ホテルを利用する客すべてという意味である。
 
 食事や待ち合わせでホテルに来た人に対しては、快適に事を運べるような、ほどのよい親近感と無関心が必要であろうし、食事は厳選された食材を使わねばならない。料理人は自ら吟味した食材で、客の胃袋を喜ばせる工夫をしなければならない。プラス・アルファとはこの場合、客が支払った金額以上の満足感をおぼえるという事になるだろう。いつか再訪しないと損をする、そう思わせる事がプラス・アルファなのである。
 
 待ち合わせも食事もここに限る、そう思ってもらえれば当初の目的は達成できたといってよい。さて、ホテルが十分に機能できるには、必要にして十分な人的環境と条件が整っていなければならない。そのひとつの目安として、部屋数と従業員数の相関関係について述べるとしよう。いま部屋数200のホテルがあるとして、従業員は完全週休二日、一日三交替制と仮定しよう。
 
 従業員とは、ベルボーイ、レセプション、キャッシャー(チェックアウト時の会計)、クローク、コンシェルジュ、送迎車のドライバー、セキュリティ、ハウス・キーパー、ルームサービス、オペレーター、専用レストラン、ランドリー、アシスタント・マネージャー(クレームやコンプレインの処理係)、リザベーション、ボール・ルーム(宴会場)、セールス(営業)、総務、経理などに携わる人間の総数である。名門ホテル、あるいは一流ホテルの名に値する従業員数は部屋数の3倍、600人である。
 
 規模の大きいホテルには、部屋数1200などというのもあるが、そのホテルの従業員総数が3600人なら、一応一流ホテルの第一関門を通過したといえよう。しかしながら、現実には部屋数1200に対して、3600人の従業員をかかえるホテルなど存在しない。
 
 私が従業員の数にこだわるのはそれなりの理由がある。部屋が常に満室になるとは限らないが、客室の稼働率が年平均80%(採算ベースの数字)として、上記の部屋数200室のホテルなら、160室が稼働していることになる。
 
 600人で三交替なら、常時200人の従業員がホテルにいる事になるが、実際はそうではない。完全週休二日制ゆえ、7分の5、すなわち200×5÷7=142人の従業員しかいない。さらに病欠の人や出張、冠婚葬祭で欠勤する人もいるだろうから、実際には130人強しかいないということになる。このうち直接客室業務に携わる従業員は2分の1(ホテルでは上記のごとく、セールス、総務、経理、宴会場など客室業務に直接関わらない部門がある)として、約65人。
 
 65人がベル、レセプション、キャッシャー、、コンシェルジュ、送迎車、セキュリティ、ハウス・キーパー、ルームサービス、オペレーター、専用レストラン(深夜はクローズ)、ランドリー、アシスタント・マネージャー、リザベーションなどの業務を昼夜を分かたずこなしているのである。200室の客に対して65人が世話すればアテンドは可能である。
 
 だが、ほとんどのホテルは、客室の3倍どころか、2倍の従業員もいないであろう。世界的な人件費の高騰と不況が災いして、そういう数を確保すること自体無理なのである。ほとんどのホテルといったのは、ホテルの中には、それだけの人員を確保しているホテルも存在するからである。それがいわゆる一流、名門への登竜門といえよう。真の一流ホテルが、豊富な人員により提供する素晴らしいサービスに関しては次回で。
 
                     (未完)
 
更新日時:
2002/05/27

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