HOTEL(4)
 
 何でもそうだと思うが、驚きとか感動は最初だけであって長続きしない。タリフ(客室料金)が値の張る高級ホテル、とりわけ東南アジアのそれに宿泊する時、一歩部屋に入ると、ウェルカムフルーツやウェルカムシャンパンが待ち受けている。
 
 東南アジアの有数のホテルでは、そういうサービスがいわば日常化しており、ヨーロッパなら一泊12万円以上のSuite Roomにだけ室内のテーブルに無料で添えられる高級シャンパンが、一泊4〜5万円のSuperiorかDeluxeタイプの部屋でも無料で供出される。
 
 前回記述した様々なサービスも、最初は気分のよいものだが、二回目からはとりたてて思うこともなくなるのだ。慣れというのはそういうものである。私はサービスは精神であると書いた。名門ホテルでは、一見無駄とも思える人員確保の上で、客のあらゆるニーズに対応できるアテンドを用意しているのだが、頭数の多さをフルに活用すれば、ハウスキーパーも余裕を持って客室に心配りができるという次第である。
 
 もちろん、そういう配慮がタリフにはね返ってくるのは至極当然の事といえよう。ただ、料金が高いだけでは一流ホテルとはいえないし、ロビーやレストラン、客室が豪華であるから一流とはいえない。そんなことは当たり前で、いまさら申し上げるまでもないのだが…。
 
 サービスが精神であるという私のホテル論は、客室業務に係わるすべての人々のマナーのよさ、親切心、客をもてなすという事の何たるかを充分に認識しているという点に凝縮される。予約時点でノー・スモーキング・ルームをリクエストしていたのに、何らかの手違い(名門ホテルでは考えられないミスである)があった時、ただちにルームチェンジしてくれるという事。見晴らしの悪い部屋に通された時も同様である。
 
 事が何にせよ、何らかの不都合が生じた場合、直ちに対応(客本意の)できるかできないか、それが一流と二流以下を分け隔てるのだ。三泊の予定が、突然の急用のため一泊で切り上げて帰国しなければならなくなった時、もしくは、別の都市に移動せざるをえなくなった時(ホテルが気にくわないから移動する場合も含む)、客の要望に気持よくこたえて、スムーズに事を運んでくれるホテル、それが一流ホテルである。
 
 朝食、昼食、夕食の別を問わず、ホテル内のレストランやブラセリーで食事を摂った時、自家製ジャムがまずかったり、目玉焼きやゆで卵の焼き具合、ゆで具合が希望(前もって先方が尋ねる)と違った場合、直ちに新しいものに交換する、その手際のよさ。これは朝食の例であるが、ほかの場合も同様である。
 
 ミュンヘンの「ラファエル」(マイケル・ジャクソン他の米国スター御用達のミュンヘン随一の高級ホテル)で朝食を摂った時、オレンジジュースにほんの少しシャンパンの味がしたのでその旨伝えると、5〜6gは入っている容器ごと捨ててしまい、支配人が丁重にあやまりに来た。そして言うまでもないことだが、搾り立ての極上のオレンジジュースを持参してきた。一流とはかくのごとし、対応の早さと誇りなのである。
 
 くどいようだが繰り返し申し上げる。サービスは精神である。温かいことも、マナーのよいことも、対応の早さも、誇りも、これみなすべて精神の発露であってみれば、一流と呼ばれる名門ホテルは、客の再訪心をくすぐり、近未来に再訪を実行してもらうための近道が何かを知っている。
 
 これは言わずもがなであるが、自らのHPを再訪してもらいたいために世辞を言うのとは本質的に異なる。客の精神の高揚には、ホテル自身の精神の豊かさ、緻密さ、将来への展望が不可欠なのである。 
 
                     (未完)
更新日時:
2002/05/22

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