ホテルの充分な人員配置が客にもたらすサービスについて、私自身の体験という視点からふれてみましょう。主に香港のペニンシュラとリージェント、バンコクのオリエンタル、パリのブリストルなどで、1984年〜89年の間それらのホテルが古き良き時代の恩恵に浴していた時代の話です。
上記のホテルに宿泊した場合、ルームがスタンダードタイプなら、そういうきめの細かいサービスがあったかどうか分からないが、DeluxeまたはStudio、あるいはSuiteタイプの部屋を予約できた時、私はそれまでにない経験をした。
バンコクはほとんど年中夏だし、香港も5〜10月の日中は夏と考えてよい。午前11時ごろから午後4時ごろまで外で用を足してホテルに戻ると、まず最初にしたいのはシャワーである。温かい湯を使い、エアコンの効いた部屋で、冷えたビールかシャンパンを飲む。そのひとときは、昼間味わうささやかな快楽。
シャワーを使うと、バスタオルやフェイスタオルで身体を拭く。ときとしてバスタブにたっぷり湯をはってジャグジーを使用することもある。少しくつろいだ後また外出するのであるが、再び部屋に帰ってきたら、バスタオル、ハンドタオルが新しいものに代わっている。バスタブやシャワー室に付着していた石鹸とシャンプーの泡もきれいに消えている。
外出しているわずかな時間にハウスキーパーがマスターキーで入室し、手早くバスルームを掃除し、タオル類を代えていったのである。再度の外出で大汗をかいたまま夕食に向かうのは気持ちのよいものではなく、またシャワーを浴びてホテルの外のレストランへ食事に行く。
2〜3時間後部屋に戻ると、またバスタオルなどが新しくなり、シャワー室もきれいになっている。ベッドメイキング後のベッドの上にはバラの花とホテルメイドのチョコレート。ベッドの下には白いリネン(50×40a)が敷かれ、スリッパが置かれている。ホテルに滞在中(3〜4泊)、それは続いた。単に手を洗ってハンドタオルを使った場合でも、外出先から帰って来ると、そのたびに新しいものに代わっていたのである。
(未完)
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