格安旅行の快楽(3)

 
 「格安旅行の快楽」に貼付されている画像はすべて英国のB&Bの一室で、上のfour poster bedroomも同様、一泊ひとり5800円ほどの部屋である。B&Bについては説明の要もないと思うが、B=Bed&B=Breakfastのことで、朝食付きの宿を意味する。
 
 私は実のところ、フランスならともかく、英国のような物価の高い国で、ひとり5000円で瀟洒なB&Bに泊まれるはずがないと考えていたが、それは大きな間違いであった。何が言いたいか、これでは説明不足と思う方に、あえて以下の事を附記しておきましょう。
 
 理想のB&Bに格安料金で宿泊できるのは、有名ホテルや都市ホテルと違って無駄な所に経費を使っていないからである。ミニバーなどというものは、小型冷蔵庫にありふれた飲物が入っているだけで、缶コーラ1本に500円以上支払って飲む人は表彰ものである。B&Bには24時間ルームサービスというのも存在しない。ランドリーもない。
 
 送迎車もなければコンシェルジュもいない。必要ならB&Bのオーナーがそれらの代役をすることはあるが、不必要なモノは一切存在しない。だが、必要なもの、なくてはならぬもの、すなわち、温かいもてなし、清潔、快適、うまい朝食などは存在する。
 
 私は齢50になって初めてB&Bの良さに触れ、以来すっかりB&B贔屓となった遅咲きの花である。花やら蝶やらと忙しいことではあるが(「旅の雑学ノート」のHOTELを御覧下さい)、そういうことにさせておいてもらえれば幸いです。
 
 さて、私の知り合いに面白い男がいて、彼は学生時代に友人数人と欧州旅行に出かけ、途中でバラバラになり、その男だけ北欧で皿洗いなどのアルバイトをして滞在日数をかせいできたらしい。もう60の坂に近い年齢ながら至ってタフである。彼はいまでも時間さえあれば、たいがいの手作り個人旅行は実現可能であると思い込んでいる。
 
 40代、50代とツアーに参加しただけで、また、20代の長い旅も自分がプランを立てたわけのものでもなく、ふだんから用意周到の旅行計画を練るという習慣もないのに、その気になればいつでも素敵な旅行を構築できると考えている。
 
 旅の構築能力というのは人それぞれであろうが、余程の天才でもないかぎり、いきなりすべての要素を余すところなく網羅して構築できるというものではあるまいに。例えはよくないかもしれないが、舞台に二十年以上立っていない舞踊家が、長いブランクの後に稽古もせず舞台にのぼり、お客に充分に堪能してもらえる踊りが可能か否か、考えてみるまでもないだろう。
 
 そうなのだ、自信は過信となり、ついには自分の姿さえ見えなくなるのである。会話力も同様で、ふだん日本語しか喋らない人が、長年にわたり外国語を使わない状況にあって、往事と寸分違わぬ調子でスラスラ会話できるものでもなかろう。
 
 ふだんからそういう環境にいるのなら話は別だと思うが、1〜2年に1回の割で旅しても、年を取れば異なった環境に順応するまで時間がかかる。時間はどんどん過ぎ去り、頭は老化するのである。若い時と同じような感覚がいつまでも続いていると思うのは大きな間違いであろう。記憶力も、反射神経も、適応性も、物事を構築する力も衰えていくのだ。
 
 だから、まだなんとかなる内に旅をしよう、という次第なのである。
 
                      (未完)
 
 
更新日時:
2002/05/27

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