2023-08-26 Sat
デリシュ! 仏2021 2022年9月公開 2023年6月25日WOWOW

 
 フランス映画の長所が集約された映画。ロケーション、役者、撮影、照明。18世紀後半に実在した宮廷料理人が、仕えていた公爵のもとを去り、世界初といわれるレストランを開くまでの数年を描く。
従来、旅人が泊まる旅籠は変わりばえのしない定食を提供してきたが、一つのテーブルに座って、定食ではなく一品料理やコース料理を自由に選ぶという方式を定める。食器をテーブルに並べておくというアイディアもそのとき生まれた。金、時間、嗜好があれば誰でも食べに行ける料理。特権階級に独占されていた料理人は解放され、腕と勇気さえあれば自分のつくりたい料理に専念できるのだ。
 
 メディアがグルメ番組やレストラン情報を山のように紹介し、そのほとんどは食通を満足させていないのが実情。いつのころからか自称料理研究家が増殖し、誰でも食堂を開き、味盲の取材者やクチコミが横行し、きのう紹介された店がきょう影も形もないという傾向にある昨今。宮廷だろうが大衆だろうが、手頃な料金で舌を満たす料理に私たちは飢えている。
 
 貴族は毎日贅沢し、庶民は食材選びさえできないという時代。わがままで横柄だが富裕であるがゆえに美食に興じる特権階級に雇われていた中年男は独創的な料理に挑む。
特権階級は独創に慣れておらず、食材にケチをつけ、侮辱する。料理人は公爵に抵抗し、解雇され帰郷するのだが、明日の食材を十分に買えない生活に思い悩む。独創的発想の人間も自身の身の振り方に保守的なのはいつの世もおおむね変わらない。
 
 公爵とのあいだを取り持つ人間の意見に耳をかたむけ、いったんは考え直す。公爵のもとへ帰れば生活は保障されるけれど自由は奪われる。そこにあらわれるのが中年女性。弟子にしてほしいと言い、何度拒絶されてもあきらめない。本人は娼婦だと言っているが、品があって物腰は洗練されており、語彙も豊富で正体不明(画像は料理人と女弟子)。
料理人の息子も手伝うようになり、ドラマは活気を帯びてくる。歴史劇にありがちなムダなシーンはなくテンポがいい。料理人、謎の女、息子の3人が一丸となり、こんにちでは当たり前のことを次々と発想していく。調理の場面も数多く登場し興味をそそる。
 
 ローマは一日にしてならず。村人が食糧を盗み、村の子どもたちは庭に置かれた食材をかっぱらっていく。それも束の間、料理人一家に災難が襲いかかり、しかし父と息子は結束し、不屈の精神で乗りこえる。そういう描写もさらりと描いている。だからかえって印象に残る。
謎の女のセリフがイキでコミカル。料理人のやる気を奮い立たせる。師匠と弟子の奇妙な友情。謎の女の正体、目的は映画の進行とともに明らかになる。
 
 わがまま公爵が料理40品目の昼食を依頼し、3人は腕によりをかけ夜を徹してお昼前ぎりぎりで料理を完成させる。風景描写だけでなく、そうした撮影も見事。そしてどうなるかは映画をご覧に。
大詰、公爵は愛人とふたりで料理人のレストランにやって来る。公爵は当然のごとく客は自分と愛人だけだと思っている。ラストシーン、公爵はかんかんになって怒り、「店を取り壊す」、「処刑する」とわめき散らして帰っていく。
 
 上空からレストランを映し、徐々にカメラが引いて周囲の森を撮影する。字幕「バスティーユは解放された」の文字で映画は終わる。2023年8月23日、2ヶ月前に録画した「デリシュ!」を視聴。人情味あふれるコメディ歴史劇。アッという間の110分でした。