2026/08/30    ちょこっと京都に住んでみた

         藤野家住宅  京都市中京区高倉通中屋町上ル
 
 
 「ちょこっと京都に住んでみた」は、テレビ大阪が制作し、2019年12月29日に85分のスペシャルドラマとして放送、2022年7月から同年8月にかけて30分の連続ドラマ(計6話)としてテレビ大阪(またはテレビ東京)で放送された。
 
 東京で暮らす女性(木村文乃)は、京都の町家に住む大叔父・近藤正臣がケガをしたので、世話するよう母の依頼を受け京に上る。
近藤正臣は「おおげさや」とか何とか言って木村文乃を返そうとするが、彼女は京都を知りたいと大叔父の町家2階に居候する。彼から手描き略図を渡された彼女は自転車に乗って小さな店を探訪。
 
 くりかえし再訪したくなる町・京都。心を潤す賀茂川の流れ。海外観光客でごったがえす表通りと違い、閑静で人の少ない裏通り、出会った人たちとの短い交流、5日間の滞在で彼女は京都になじみ、好きになる。
 
 老いて一人暮らしの近藤正臣に木村文乃は、「一人でさみしくないですか」と問う。「一緒に寄り添うんや。上手につき合うだけや」と彼はこたえる。
若者のさみしさと老人のさみしさは異なる。どこが違うか。老人は孤独を友として受け入れる。若者は孤独に耐えかねて友を求める。さみしさは老人の影となって、憂うことなく、抵抗せず寄り添うのだ。
 
 近藤正臣は京都生まれの京都育ち。母子家庭の母が三条で小料理屋をしており、後を継ごうと意を決して、京都の府立高校卒業後、大阪の吉兆で板前修業をしたが、3ヶ月でやめてしまう。
 
 高校時代、演劇部にいたので役者の道を進むのに抵抗はなく、小劇団を起ちあげたり、京都の撮影所でエキストラをやっていた。そのとき今村昌平監督の映画「エロ事師たち」(1966 原作は野坂昭如)のオファーを受け出演。
映画の主役・小沢昭一はキネマ旬報の主演男優賞を受賞、キャストに坂本スミ子、田中春男、北村和夫、菅井きん、二代目中村鴈治郎、殿山泰司、西村晃など錚々たる顔ぶれ。三島由紀夫が原作を絶賛している。
 
 近藤正臣の出世作となった「柔道一直線」の主役は桜木健一だった。奇しくも数十年後、「ちょこっと京都に住んでみた」で桜木健一は近藤正臣の仕事仲間役となって出演している。
「ちょこっと京都に住んでみた」が近藤正臣最後のドラマになったと思う。2015年ごろまで数多くの舞台に立ったけれど、その後彼はノンフィクション番組のナレーターやナビゲーターをつとめた。
 
 2017年12月12日放送の「一本の道 ナポレオン街道 鷲の飛行 328km」は、アナウンサー中山里奈が街道の一部を歩き、近藤正臣が語る。
ナポレオンがエルバ島を脱出し、南仏の海岸(カンヌとアンティーブのあいだ)にたどり着き、グルノーブルに至る328キロの行程・ナポレオン街道を空から撮影。フランスアルプスの南に点在する町や村、住民の模様を描く。
 
 エルバ島脱出のさい、ナポレオンに従う約1000名は険しい山を越え、馬やラバしか通れない曲がりくねった細道を進む。2頭立ての馬車が通行できる道幅はない。途中で大量の金貨をのせたラバが崖から転落しても回収することさえできない峻険な崖だ。1日の歩行距離は平均40キロ。
 
 立ち寄って宿泊した村や町はナポレオン贔屓もナポレオンが敵対するルイ18世の王党派贔屓も一様にナポレオンを歓迎して饗応した。彼が貴族のためでなく市民のための政治をおこなったのが人気の理由と思われる。
 
 ナポレオンが上陸した場所からそう遠くない町アンティーブのホテル「ドゥ・カップ」に1989年7月、3泊した。アンティーブにはナポレオン博物館がある。個人のコレクションを基に1964年開設され、美術品、武器、皇帝時の記念品などを展示していたが、現在閉館されている。
 
 皇帝の座を追われ囚われ人となっていたナポレオンが返り咲きを虎視眈々と狙い、ある者は名誉、栄光を、またある者は出世をめざしてナポレオンに味方し共に行軍する。近藤正臣のナレーションが傑出していたのは、そのようすを明るく、劇的に語ったことによる。
 
 近藤正臣が空飛ぶ鷲になり、フランス皇帝になり、一兵卒になって語る番組は臨場感あふれていた。南仏の上陸地点からパリまで約800キロ。ナポレオン街道の終点はグルノーブル。そこからパリまでの続きを放送してほしかったけれど、制作されなかった。
 
 先日、プラシド・ドミンゴの「君はわがこころのすべて」を久しぶりにダビングBDでみた。オペレッタ「微笑みの国」主役のテノールが歌う名曲。2013年6月30日、ローレライ野外劇場でおこなわれた「ドミンゴ・ローレライ・コンサート」。「君はわがこころのすべて」の要約は以下。
 
 わたしはどこへ行ってもあなたの存在を感じます。わたしの心はすべてあなたのものです。あなたのいないところでわたしは存在することができないのです。
 
 当時72歳のドミンゴ自身の人生を熱唱したような歌を聴いて近藤正臣の「妻亡きあとに 近藤正臣 郡上八幡ひとり暮らし」(60分)を思い出した。奥さんのヒロさんを追懐して83歳の寡夫が語る感動シーンが随所に出てくる。孤独、さみしさをあれほど自然に、感動的に描いた番組があったろうか。亡くなった妻に語りかけるシーンは自然で秀逸。
 
 朝昼兼用の食事を11時前後に食べる。毎日、米を一合だけ炊く。電子レンジは持っていない。近藤正臣が料理をつくったり、野草を摘み取ったり、バルコニーの枯葉を竹ぼうきで掃くすがたに引きこまれる。
 
 気休めはネコ。柿を食べにくる野生のサルを怖れているが飼い主にはなついている。伴侶が亡くなって生きる支えを失った。だが、自分が生きているあいだは伴侶もそばにいると思い、それをよりどころにして生きていこう。姿は見えなくても何かを感じるのだ。
 
 2025年3月20日に初回放送され、何度再放送されたことか。ダビングBDを8回くらいみて、内容をおぼえているのに先日またみた。
「あっち向いてほい」2025年12月5日に概略を記したので関心のある方はお読みくださいと言いたいところですが、番組をみていない方は何らかの方法でご覧になってください。文章の万倍の値打ちがあります。

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