8人の女たち

 
 今年は久々の外国映画の当たり年である。小学生の頃、近所に洋画専門(その後数年で日活、大映など邦画専門へ移行)の映画館があり、そこでみた「紅はこべ」が私の外国映画初体験である。「紅はこべ」とは英国版鞍馬天狗とでもいおうか、主人公は英国の貴族パーシー卿、またの名を紅はこべ、フランス革命直後・ロベスピエール治下のパリで活躍する反権力のヒーロー、血湧き肉躍る冒険活劇物語。
 
 私の少年時代は別稿に譲るとして、上記「8人の女たち」はフランス映画の題名で、画像向かって左端がカトリーヌ・ドヌーブ、中央の椅子に座っているのがダニエル・ダリュー‥往年の名女優‥、そのうしろのメガネをかけた地味なのがイザベル・ユペール、黒いメイドの衣装(白の帽子)を着用しているのはエマニュエル・ベアール、右端がファニー・アルダン、フランス映画界を代表するそうそうたる顔ぶれである。
 
 その女優たちが一堂に会する作品はいわば珍品というべきもので、おそらく二度とお目にかかることはないであろう。見るは一時の損、見ぬは一生の損と思い見にいった。映画そのものは舞台劇の手法を取り入れた推理物で、ストーリーも瞠目に値するとは言いがたいのだが、上記の女優すべてがリラックス・ムードで演技しているのが印象にのこった。
 
 一軒の家で起きる人間の様々な葛藤と愛憎を、これほどのくつろぎ感と自然体で演じる彼女たちの底の深さ、以心伝心のチームワークの良さに感心した110分で、アメリカ映画が逆立ちしても及ばない別世界。
 
 右端のファニー・アルダンの存在感は並みいる女優を圧しており、演技派で鳴らした若手のエマニュエル・ベアールも、あのドヌーブでさえ影が薄くなるほどであった。ジェラール・ドパルデューと共演した「隣の女」は彼女のひとり舞台、あくの強いドパルデューも完全に食われていた。
 
 彼女は「エリザベス」でスコットランド女王メアリー・スチュワートの母メアリー・オブ・ギーズを演っていたが、演技派で名前を売っているエリザベス役のケイト・ブランシェットが貧弱にみえたから恐れいる。なんといえばよいのか、どんな時でも安心して頼れる大姉御とでも申しましょうか、貫禄充分で、ファニー・アルダンのようなお姉さんが側にいれば随分と面白く、また心強いだろうな‥と思ってしまうのである。
 
 それはともかくとして、この映画では8人が各々歌うのだが、それぞれに味があってたのしい。中でもダニエル・ダリューの味わい深さは出色で、語るように歌う「本当に幸せな愛なんてない‥」という詞が、多くの哀歓を経た人間の思いを端的にあらわしている。分かる人には分かるだろう、詞の奥深い意味が。
 
 まだ年内に洋画を二本みなければならない。年の瀬も押しせまっているというのに、何の因果か楽しみか、ほんにこの数ヶ月は洋画づいている。このコーナーもほとんど映画一色の様相を呈しているようである。
 
更新日時:
2002/12/18

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