トスカ
 
 1900年ローマで初演されたプッチーニのオペラがなんと映画化された。出演者全員がオペラ歌手で、トスカをアンジェラ・ゲオルギュー、トスカの恋人・画家カヴァラドッシをロベルト・アラーニャ、警視総監スカルピアをルッジェーロ・ライモンディ。
 
 物語は1800年、ナポレオン進攻を目前にしたローマの教会とファルネーゼ宮殿の一室を舞台に繰り広げられる。反動政治の頭目スカルピアはトスカに横恋慕し、おのれの淫らな欲望のためにトスカとカヴァラドッシの仲を引き裂こうとする。
 
 カラヴァドッシは親友のアンジェロッティ(脱獄政治犯)をかくまった罪に問われるのだが、スカルピアはカヴァラドッシの命を救うには操を代償にするしかないとトスカに執拗に迫る。
 
 毎日午前10時からの一回上映ということでみにいったが、さすがというべきか、大阪・梅田の小さな映画館は中年・老年のオペラファンが列をなし、立見席まで出た。主役のふたりはオペラファンにとっては垂涎ものの美男美女、おまけに歌唱力、演技力も際立っている。ほぼ完璧な字幕付きでみれるとあっては、行かない法はない。
 
 出来はほぼ期待通りで、上記3名は勿論のこと、スカルピアの部下スポレッタの好演も光り、さすがに名だたるオペラ歌手はやるわいと劇場をあとにした。ここで終わればエッセイの体を成していないので二言、三言加えるとすれば、例のトスカの「歌に生き恋に生き」や、カヴァラドッシの「星は光りぬ」は、この映画の中でも効果的かつ見事に歌いきられ、その名旋律は聴く者を惜しみなく興奮の坩堝に放り込む。
 
 とりわけ「星は光りぬ」は、監督(ブノワ・ジャコ)の思い入れがひときわ強いのか、歌までの間を十二分に取っている。いったん曲のイントロ部を演奏し、なおそれからも宮殿の夜景などの映像を流し、さらに間を取るといった念の入れようなのだ。(この歌を聴かせたいために映画をつくったのではあるまいか)
 
 これが実に功を奏しており、名曲「星は光りぬ」をアラーニャが歌っている間、場内は水を打ったような静けさ、観客が感動で打ち震える様子が手に取るように分かった。映画は生の舞台に劣る、などときいた風なことは言えまいと思った次第。
 
 「星は光りぬ」はドミンゴが歌っても、市原多朗が歌っても聴かせる歌であり、オペラを離れていつ聴いても飽きることがない、歌唱力抜群の歌手が歌えば‥という但し書きは入るが。ところで、アンジェラ・ゲオルギューとロベルト・アラーニャは実生活の夫婦である。
 
更新日時:
2002/12/24

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