不景気とは縁のない人
 
 「ワタシワルクナ〜イ、ワタシナニモシラナ〜イ、ワタシオカネダイスキ〜、ワルイノ、ミナ、チダ」ですっかり有名人となったチリ人アニータ・アルバラード、彼女の人を食った発言はここに極まる、「アオモリノヒト、ゴメンナサ〜イ」。
 
 あの事件でわかったことは、巨額の公金を横領した千田郁司被告という45歳の中年男のでたらめさと、青森県住宅供給公社の間抜けぶりであった。それはおそらく誰しもが認めるところであろう。
 
 住宅供給公社にある金は、もとはといえば税金で、税金であるかぎりにおいて公社に勤める誰のモノでもない。誰のモノでもなければ、紛失しようが盗られようが誰の腹も痛まないのであって、いかなる個人が損をするわけのものでもない。
 
 アニータ・アルバラードが「ゴメンナサ〜イ」と青森の人を小馬鹿にしていたのも実はそこのところで、彼女の言いたかったのは要するに「ダレも実害はなかったじゃないの」という点であったように思われる。(それがトンデモナイ所で、アレ、ミナ、ワタシタチノゼイキ〜ン!)
 
 歌舞伎「三人吉三」で、お嬢吉三が「棹の雫か濡手で粟、思いがけなく手に入る百両」と言うくだりがあるが、アニータにとってまさに濡れ手でアワの数億円であった。
 
 こうした事件は、男と女に色情のついて回るかぎり絶えることはないだろうし、色情ぬきでも起こる出来事ではある。それにしても、一介の娼婦との長くもない性交渉に十億円(以上)とは‥と呆れかえった人は少なくなかっただろう。
 
 読売ジャイアンツ・松井選手の1シーズンの試合数は140試合で、年俸5億6千万円なら1試合4百万円となる。大きな声では言えないが、アニータの1試合のほうが金額は上ではなかったろうか。
 
 青森県は現在チリの民法(婚姻中に取得した夫婦の財産は夫に帰属する)を盾にとって公訴中であるが、彼女がほかの名義を使って隠匿したと考えられる金はおいそれとは見つかるまい。悪いやつが得をするというのも理不尽な話である。しかし、世の中にはアニータ・アルバラードのように不景気とは無縁の人が存在するものである。
 
更新日時:
2002/09/17

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