ここは6番目の夢ホテルです。
1階にラウンジとレストラン、3室のSitting room。
2階にはふたつのSitting roomと読書室。
客室はすべて2階にあり、5部屋しかないのですが、
すべてSuite roomです。
 
鬱蒼とした森にも囲まれていないし、広大な庭もない。
手入れの行き届いた小さな庭、果樹園、菜園はありますが…。
オーナー夫妻と昔からの執事、お手伝いさんの4人。
それと、近隣からパートタイム・ワーカーが1名来ます。
 
特に自慢するものもないのですが、近くの小川の水の美しさ、
温かいもてなし、清潔な客室、おいしい空気と料理‥、
車で15分も走れば臨める素晴らしい景観などがあります。

 
夢ホテルの近郊には豪華なシャトー・ホテルもあるのですが、
5部屋しかないここに人気が集中するのは、手頃な料金、
家族的で親しみやすい環境によるのです。
 
2食付きと朝食付きの料金は、一人1万6千円と1万円。
朝食は好みによってテラスでもとることができ、好評です。
 
新鮮な搾りたてのオレンジジュースやパイナップルジュース、
良質のブルーマウンテンとブラジルをミックスしたコーヒー、
果樹園で実った数々のベリー類でつくった自家製ジャム、
近くの農家から毎朝届けられる卵やミルクなど。
 
何もかもが滞在客の満ち足りた笑顔のために存在する、
それが夢ホテルなのです…。

 
ここでは、過去180年間あらゆる犯罪に縁がありません。
 
180年前の1822年、一夜の宿を借りたスコットランド人が、
宿の娘と懇ろになり、19歳の娘は9ヶ月後、女の赤ちゃんを
産んだというのが、当時犯罪として扱われたようです。
若い彼はプロテスタントであったから、というのがその理由。
娘と子供のその後の事は記録にも残されていません。
 
昔の話を懐かしそうにする老人も年々少なくなってきました。
ホテルは何回かの改装を経て、世界中に顧客をもつに至りました。
たっぷりと温かく、それでいてさりげないもてなしが、客の心を
とらえるからなのかもしれません。
このレストランの醸し出す雰囲気のように…。

 
6月半ばの夕方、町から10`離れた13世紀の古城に
ウェディング・ドレスをまとった花嫁が現れるという伝説があります。
その花嫁は、お城に向かう途中で何度もあたりを見回す仕種をする
という話が、花嫁を目撃した人の共通の話題となっています。
 
花嫁はいったい何を探しているのでしょう、私も6月のある日の夕刻
その古城に行って、花嫁の姿を見たいと考えています。
彼女は、自分にふさわしい伴侶を追い求めているのでしょうか、
だから、その男が現れるまで永遠に古城を彷徨するのでしょうか…。
 
中世から営々と続く伝説は今なお息づいていて、それも夢ホテルに
ある種の彩りを添えているようにも思えるのです。
あの花嫁は180年前の宿屋の娘だという人もいますが…。

 
5部屋のSuite roomはそれぞれ内装が異なっていて、
カメラが趣味のオーナーのアルバムが各部屋に置いてあり、
宿泊客はみな、他の部屋の様子を写真で知る事ができるのです。
 
口コミで聞いた人は、予約時に部屋名を申し出て予約します。
5部屋の名はNからはじまり、ナタリー、ニコラ、ヌーボー、
ネイザン、ノルマンと名付けられています。
 
この部屋はヌーボー、インテリアが比較的新しいしつらえです。
ナタリーは情熱家という設定なので、内装も大胆、
いずれご紹介する機会もありましょう。

 
ここはオーナー夫妻の隠れ家。
といえばきこえはいいのですが、なに、居宅です。
昨年売りに出した村人から譲り受けました。
夢ホテルから車で15分ほどの村はずれにあり、
電話やFAXは、執事とお手伝いさんが休暇を取る12月、
1月と8月はここに転送されます。
 
万が一、深夜ホテル内で突発事が起きても有能な執事に任せます。
宿泊客の急病といった非常事態でも、町の医者の何人かと契約し、
備えに余念がありません。
夢ホテルは、不測の出来事にも常に対応しているのです。
少ない予算と人手でも、その気にさえなれば可能。
 
オーナー夫妻がここを住まいにしたのは、近々「夢ホテル」という
タイトルで草稿を書き上げ、上梓するためです。

PAST INDEX NEXT